「かゆいところに手が届く、マニアックで変態的な商品」。これぞフィールドフォース! そう言いたくなる新商品が、まもなく登場する。4月末に予約開始予定の「ハンズフリーティー」FBT-800。電気を使わず、からくり仕掛けでティースタンドにボールをセット。ティー打撃が楽しくなるだけでなく、なぜかそこには「自分と向き合う」練習のための、絶妙な「間」も感じられて…。
発想の起点は自転車のブレーキ!

奇才・吉村尚記の真骨頂といっていいかもしれない。
「ずっとね、すごいよなあと思っていたんです」
ハンズフリーティー最大の特徴である、足元のフットペダルを見ながらフィールドフォース社長・吉村が語る。
「自転車のブレーキです。手でレバーを握るだけで、前輪・後輪が止まる。当たり前に使っていますけど、これってすごくないですか。意思を伝える役割を持つのは、1本のワイヤーです。この仕組み、いつか使えないかなあと思っていたんです」
フットペダルを踏み込むと、ワイヤーにより連動するボールストッパーが外れ、雨どいのようなレールをボールが転がり落ちる。その先にあるのは、跳ね上げ式の樹脂製レーン。このレーンを伝わり、ボールがボール受けにセットされると、ボールの重さから解放されたレーンは、根元のウエイトにより、再び自動的に跳ね上がり、ティー台にボールがセットされた状態に。あとは通常の置きティーと同様に、ボールを打つだけだ。
伝統(!?)の「鹿威し」の仕組みも

「ギミック」よりは「からくり」と呼びたい、どこか「和」を感じるメカニズム。跳ね上げ式のレーンの動きに、その理由があるのだろうか。
「連続ティー(FBT-500RT)と同じ、『鹿威し(ししおどし)』をヒントにした原理を使ってるんです」
吉村が解説する。

まさしく鹿威し。そして、おそらくそれは、動作原理だけではない。
竹筒に流れ落ちた水がたまり、重さで傾いて水が一気に流出、跳ね上がった竹筒の底が石に当たって音を出す──。
鹿威しに感じる風流は、その「間」にある。ハンズフリーティーにも、それに似た趣があるのだ。
ハンズフリーティーを使い、ひとりで取り組むティー打撃。おそらくそこには「パートナー不要」という、フィールドフォースの商品開発理念だけでなく、自分と向き合い、気持ちを整えるのに具合のいい「間」も感じられるはず。そんなところにも、この練習の意義を見出せるのではないだろうか。
「ボールを拾い上げ、ティー台にセットする。ひとりで取り組む置きティーは、この準備作業により、一連の打撃動作が一旦、リセットされます。これって、動きが中断させられるだけではなく、気持ちも途切れてしまうんですよね」
と吉村。ブレーキワイヤーの応用による全自動化によりもたらされるのは、利便性だけでなく、練習の質でもあったのだ。
発想→開発→設計はすべてアナログで

もうひとつ、吉村ならでは、と思わされる部分がある。
発想から設計、デザインの段階で、コンピュータの力を全く使っていないところだ。ベースになっているのは、吉村自身の手によるフリーハンドのイラストと、これまで彼が商品開発で培ってきた経験値だけである。
吉村が普段、手にするのは紙と鉛筆、そして巻き尺、直尺、ノギス。PCはほぼ、連絡と画像確認のためのツールに過ぎない。
たとえば、樹脂製(この素材選択も経験値によるところが大きい)のレールと、ボール受けの関係。レール先端、ボールをリリースするため円形に加工された輪の部分の内径は、硬式球の大きさに1センチほどをプラスした85ミリほど。レールとボール受けのどちらに大きな“あそび”やブレ、変形があってもボールはうまくセットされないが、これが実にうまい具合に、ピタリとセットされるのだ。

「輪っかの先の部分にボールを止めるストッパーをつけ、ボール受けも少し高めにすることで、落ちてくるボールを受け止めるのではなく、ボールが自然にボール受けに乗る形にすることで、うまくセットされるようになりました」
もうひとつ、ポイントがある。
「支柱の安定性ですね。メインの支柱とボール受けの支柱、この2本がしっかり固定できていないと、レールとボール受けの位置関係にズレが生じてしまいますから、ボールはうまくセットされません」
土台はスチール製の3本の角パイプが「H」字状に組み合わされている。メイン支柱とボール受け支柱は、土台の2辺に平行ではなく「はすかい」な位置で取り付けられているが、当初、支柱を取り付ける土台の2辺をつなぐ長い角パイプは、ボール受け支柱の軸部分に取り付けられていた。
「ただ、これだとメインの支柱が安定しない。それで、横パイプをずらして、メイン支柱の根元に取り付けるようにしたんです。これで安定しました」


さらに、両方の支柱はただ土台に取り付けるだけでなく、根元部分を三角形の鉄板で補強している。これも当初の試作品からの仕様変更である。
「あ、この構造は、これまでの商品設計の経験というよりは、練習場施工の土台作りがヒントになってるんです」
それってもはや…。
「建築仕事ですね」
吉村はそう言って笑うのだった。
いずれも決して簡単な課題ではないが、過去の経験から、即座に改善案を形にして提示し、解決している。最初のラフスケッチから、わずか3度の試作で製品化レベルまでブラッシュアップしたというから、そのスピード感にも驚かされる。
独創的発想の商品で「類似品」を凌駕するのだ

話はややそれるが…。
このコーナー「FIELD VOICE」は、これまでフィールドフォースが開発・製作を手掛けてきた用具や練習ギアなどの開発目的や開発経緯を深堀りし、アーカイブとして残すことを大きな目的のひとつとしている。
「vol.1」で取り上げているのは、フィールドフォースが創業間もなく手掛けた商品である「穴あきボール」と「持ち運びできる防球ネット」。それまで世になかった、新たな視点で作られたオリジナルアイテムである。
いずれも大ヒットし、フィールドフォースの代名詞ともいえる商品となった。
その一方で、ヒット商品として広く知られるようになったことにより、コピーされ、類似品が出回る事態に。ボールやネット類など、一般的なカテゴリーの商品であったがゆえに、その数も多く、20年ほど前には存在すらしていなかった「穴あきボール」も「モバイルネット」も、今では一般名詞と言っていいほどに普及している。同時に、もはやフィールドフォースの代名詞と呼ぶには、類似品が出回りすぎているというのが現状だ。
さらにいえば、最近では、穴あきボールやネット類に限らず、かなり特徴のある練習ギアでさえ、類似品が出回り始めている。
とはいえ、このハンズフリーティーの開発経緯に見られるように、吉村による「超アナログ」でありながら、驚くべき精密さでイメージを具現化する工程は簡単に真似できるものではない。さすがにここまで「独創的」かつ「変態的」なギアは容易にコピーされることもない…ように思われるのだが、どうだろうか。
「間」を感じとることで、自分と向き合う練習を

閑話休題。
ハンズフリーティーは、これまでに開発・販売された「からくり」商品、「落下ティー」FBT-500、「落下ティー電動」FBT-500DC、「連続ティー・テニスボール専用」FBT-500RTなどの流れも受け継いでいる。
「それらの開発経験は当然、土台になっていますね」
と吉村。
いずれもボールが落ちるまでの「間」を生かすことで、ひとり練習で「集中力を高める」プラス要素も期待できる。
レールを転がるボールに集中し、「自分と向き合う」ひとり練習。「哲学的」ともいえる練習時間を重ねることで、新たな気づきを得られるかもしれない。
◇ ◇
考え得るアイデア「全部入り」のハンズフリーティー。これは「落下系」「からくり系」練習ギアの集大成といっていいのではないか。
「いえ。ブレーキワイヤーを使った仕組みは、まだ発展性があると思ってるんですよねえ」
と吉村。
そうだ。フィールドフォースの商品開発に、ゴールはないのだった。